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ま、タイトル通り「あったってなくたって大してかわりゃしない(by古今亭志ん朝師匠)」blogであります(苦笑)。

ザ・ビーバーズ〜日本のヤードバーズになるかもしれなかったバンド〜

なんてキャプションを付けては見たものの、私はそんなにヤードバーズを聴いたわけではない(泣)。
とは言うものの、ヤードバーズ作品を実に見事にカヴァーしている彼らザ・ビーバーズのアルバムは購入して聴いた。で、思ったこと。

 「上手い!上手すぎる…埼玉銘菓十万石まんじゅうみたい…」

聊かベタなボケで申し訳ないが(笑)、とにかくそう思ったことは事実で、これはたまに今でも聴くと殊の外そう思う。
前回のダイナマイツのときも同じようなことを言ったかと思うが、上手いバンドはリズム隊がかっちりしている。これは私が独自に言っているわけではなく大体の場合においてそうであることが多いということなのだが、このバンドに関して言えば当てはまりすぎるくらいに当てはまっている。

ドラムスの淡村悠喜夫はロカビリー・バンド「ワゴンスターズ」時代から一貫してドラムをたたき続けているというキャリアの持ち主。言わばGSブームが始まる前から音楽に携わっていたわけで、既にステージドラマーとしての経験は十分すぎるほどに積んでいたというわけである。
この人のドラムの聴かせどころはアルバムのラスト・ナンバー「アイム・ア・マン」で、エンディングのやたらにエネルギッシュなドラムがまさに聞き手の興奮を呼び覚ますようにズンズン響く。それ以外だとシングル曲の「君・好きだよ」の軽快なリズムの合間に入るちょっとしたオカズっぽい叩き方がなかなか小じゃれていて心地よい。

で、リズム隊と言うからにはベースもいるわけで、淡村と共にビーバーズの前身バンド「ジ・アウトロウズ」時代から所属していた荒川宏(デビュー当時は「荒川広」という表記だった)という人がそう。
どんなにつまらないアレンジでもこの人のベースはしっかりと響いて、ビーバーズ・サウンドの土台をしっかりと固めているように感じられる。やれラテン・ロックだ、ラーガ・ロックだ、サイケデリックに歌謡曲…どんなアレンジにもぴたりとはまるベースというのはやはり凄い。

これにメンバーチェンジで入ってきたリズムギター平井正之。この人の場合はリズムギターと言うよりかは完全に「セカンド・リード・ギター」だったりするのだが、このグループのリード・ギタリストの”七色の音を弾きこなす男”石間秀樹だけではもちろんヤードバーズのサウンドは再現できない。
エリック・クラプトンとクリス・ドレア、或いはジェフ・ベックとクリス、クリスがベースに回ってからはジェフとジミー・ペイジ…最後のジミー・ペイジがリード・ギターを弾いていた時期を除けば殆んどの場合ヤードバーズはツイン・ギターのバンドだったわけで、そんな彼らのサウンドを再現するには地味ながらかなりいい味出していたクリス・ドレアの役割と、ジミー・ペイジのようにソロも弾きこなせる役割を両方兼ね備えたギタリストが必要不可欠なのだが、まさに平井はそういうギタリストだったってわけである。
違うバンドの話になってしまうが、ザ・ランチャーズの代表曲「真冬の帰り道」の間奏のツイン・ギターの何ともいえない美しさも、喜多嶋修(女優・喜多嶋舞のお父さんである)のメロディのパートにぴったりと寄り添うように響く大矢茂のパートが合ってこそあれほどまでに美しく響くのであって、
「君なき世界」で石間がかなり自由にソロを弾いている脇で正確なリズムでリフを弾いている平井の存在はまさにクリス・ドレア+ジミー・ペイジと言えるのではなかろうか。ソロのようでありバッキングのようでもあるこのギターのパートはまさに聞き物である。

え?じゃヴォーカル二人も要らないんじゃないかって?そうは思いませんよ。適度にアイドル声の早瀬雅男、適度にロック声の成田賢(「サイボーグ009(新)」の主題歌「誰がために」や「電子戦隊デンジマン」などで知られる)、どちらも欠かせないはず。ロック的なサウンドを求めるなら早瀬が要らない、アイドル的な人気を求めるなら成田が要らないということになるのだが、この場合はどちらも欲しいと思っていいと思う。リズム隊がしっかりしているし、石間秀樹という不世出のギタリストもいるわけだからして、どういうアプローチで行ってもそこそこは成功すると思うしね。

…そうか、だから売れなかったのか(嘆)。

ただ、アイドル担当とは言え、ローリング・ストーンズヤードバーズが好きだった早瀬雅男はやはり不可欠なんでは?ヘンにロックっぽい方向ばかりで固めても仕方ないわけだし、寧ろアイドル担当的なキャラクターでもロック好き、って方がギャップもあっていいかな、と。

ただまぁ、彼らの所属事務所は後の田辺エージェンシーことスパイダクション。当時は同じようなグループでテンプターズって物凄い有名なグループがいたから、どうしても彼らは二の次三の次に扱われがちだったんだろうなぁ…ということを考えると、このサウンドの充実振りが却って仇になってしまったか…と残念でならない。かと言って、他の弱小な事務所だったらそもそもデビューすら出来なかったかもしれないし…。

ただただ無念のグループ、としか言いようのないバンドであったなぁ。